スペインタイル紀行①【ついに憧れのスペインへ 朝日に染まるマヨール広場】

当社代表・山内直幸がタイムス住宅新聞で連載していたコラム「スペインタイル紀行」を、
ホームページ上で再掲載いたします。
スペイン各地を巡りながら出会ったタイル文化の魅力を、ぜひお楽しみください。

レストラン「ボティン」のキッチン。子豚の丸焼きが並んでいる。後ろの壁にはカスティーリャ地方の古い幾何学模様のタイルが見える


15年越しの念願かなう


これがヨーロッパなのか? いやこれはスペインなのだ。マヨール広場をぐるりと取り囲む中世のバロック建築を眺めながら僕はつぶやいた。オレンジ色の外壁が朝日で赤く染まっている。白い窓枠が並ぶ4階建ての建物。1階は回廊でつながっており、四角い石の柱で支えられている。

20代の初めにスペインに想いを寄せて15年、ついに僕はこのマドリードの広場に立っている。

若い頃、首里の龍潭池のほとりに語学学校があった。そこでスペイン語の先生から聞いた話。スペインでは中世の時代から大学生たちが音楽グループ「ラ・トゥナ」をつくるそうだ。伝統衣装に身を包んでギターを中心に5~6人の編成で男性コーラスが美しい歌声を奏でる。スペイン中西部のサラマンカでは今でもプロポーズの際にラ・トゥナを頼み、夜中に女性の家の前でいきなり歌声を響かせる。今で言うサプライズだが、近所迷惑といえばそれまでである。愛の歌「セレナーダ」が歌われ意中の人が目を覚ますのを待つ。2階のバルコニーから彼女が出てくれば、指輪を渡してハッピーエンド。しかし、時には女性の父親が出てきてコーラス隊ごと追い払うこともあるらしい。

なんとロマンティックな国だろう、それがスペインに惹かれたきっかけだった。
それにしても物事は想い続ければかなうものだ。バルコニーのプロポーズではなく、スペインに来られたこと。家族を養う身のしがないサラリーマンには金銭的にも時間的にも難しい。その僕がこうやってスペイン中世の建物を眺めている。これもスペインタイルに巡り合えたおかげなのだ。

朝のマヨール広場。かつてお祭りや王の戴冠式などさまざまなイベントが開催されたという


世界最古のレストランへ


話をマヨール広場に戻そう。広場を見下ろせる建物は集合住宅となっている。北側の豪華な装飾の建物はバルコニー付きで、王家の観覧席として使われていた。かつてこの大きな広場ではお祭りや市場、闘牛、王の戴冠式などさまざまなイベントがあり、なんと宗教裁判の火刑まで行われていたという。ヨーロッパの中世というのは、宗教の自由がない暗い時代でもあったのだ。21世紀の今でもまだそんな国はある。

マヨール広場の南西にあるクチリェロス門を出てサン・ミゲル通りを数分下ると左手に「ボティン」がある。木製パネルの店構えが特徴の小さなレストランだ。1725年創業で世界最古のレストランとギネスに登録されている。スペインを代表する画家、ゴヤが若いころに皿洗いをしていたらしい。

アメリカの作家ヘミングウェーは著書「日はまた昇る」の中で、世界中で最高のレストランのひとつ、と書いている。子豚の丸焼きが有名なのでチャンスがあればぜひ予約して食べてみてほしい。

最後に、長い間平和を保ってきたヨーロッパが今、戦争に直面している。
1日でも早くウクライナの人々に平和が訪れますように。



執筆者
やまうち・なおゆき/沖縄市出身。

米国留学より帰国後、米国商社勤務を経て1995年、スペインタイル総代理店「(有)パンテックコーポレーション」を設立。趣味は釣りと音楽、1950~60年代のジャズレコードの鑑賞、録音当時の力強く感動的な音をよみがえらせるべく追求。

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